耐震王SANJIKU耐力壁試験報告分析

  岐阜県立森林文化アカデミーに於いてSANJIKU耐震改修工法耐力壁試験結果報告資料及び試験状況分析でSANJIKU耐力を従来の工法と比較することで耐震試験を総括し、今後の耐震改修におけるSANJIKUの使用方法を検討することを目的として、実験結果を分析する。SANJIKU耐力壁試験は、下記の要項で実施した。

★SANJIKU耐震試験実施内容

2010年 岐阜県森林文化アカデミー実験結果 (PDF 21,361,435 byte)

★★★報告書の試験状況および実験結果要因等の分析および考察★★★

  本試験は、「SANJIKU耐震改修工法」を基本仕様試供体3体を用いた試験である。SANJIKUによる耐震改修は、基本仕様に間柱および9mm以上の構造用合板を施工します。今回はSANJIKU+筋交いSPF 2×6襷掛けの基本仕様の試験を実施し、基本仕様耐力壁特性の確認を目的としている。

       ◎ 試験内容

  1. SANJIKU4箇所片面側取り付け施工(外又は内部から改修を想定)
  2. 筋交いに2×6(38mm×138mm)Jグレード筋交いを襷がけ仕様
     (試供体サイズ等の仔細については報告書記載を参照)

試供体1・2・3実験状況結果考察

      

3.11東日本大震災においては大津波も発生し、日本の歴史上稀な大災害となりました。この震災に際し、お亡くなりになられた皆様、被災されました皆様に心よりの哀悼とお見舞いを申し上げます。一日も早い復興を祈念しております。

     

◆結果分析総括◆

  今回はSANJIKU耐震工法の基本耐力壁SANJIKU+2×6筋交い襷掛けの試験を改めて森林文化アカデミーで性能評価をしたものです。耐力壁試験は、試験基準に則り柱・土台は杉KD材、桁は米松KD材 プレカットで製作しています。この試験で、SANJIKU+2×6襷掛け筋交い(基準法壁倍率3.0倍)の耐力壁の壁倍率平均4.7倍(最大5.08)壁強さ倍率は平均9.2倍(最大10.72)、最終変形1/10radまで接合部破壊等の躯体損傷無しの特性を確認しました。
  最近まで、地球規模での地震多発時期を迎えているとも言われて久しいにもかかわらず住まいの耐震性に関する認識は低く耐震改修はなかなか進まない情況が続いていました。また、建築業界自体もデフレ不況・住宅新築棟数の大幅な減少など大きな転換期とも言われておりました。そんな折、2月22日ニュージーランド・クライストチャーチでM6.3、規模はそれほどではないものの浅く強い直下型地震が発生、日本からの多くの語学留学生がビル倒壊に巻き込まれ、まだ毎日の新聞記事で被害状況を伝えていた最中,今度は3月11日我が国の歴史上最大規模M9.0 の大地震が宮城県沖で発生。巨大津波で被害者は2万人以上に及んでいます。さらに、安全が確保されていると信じられていた東京電力福島原発がメルトダウン、チェルノブイリ以来の大惨事の様相を呈してきました。今回は地震が想定外の規模と被害状況になったとして、今後予想される地震の見直しも検討されるようです。今まで東海・東南海・南海・関東直下型地震の発生危険度は高く、中央防災会議ではこれらの地震が発生した場合100万棟近い全壊棟数であると警鐘、国では補助金を組んで耐震改修を促進しています。
しかし、震災後に急遽進められた耐震改修は、建築基準法の検証も十分ではなく、「倒壊による圧死を防ぐ」とする曖昧な補強を続けているといえます。一体どの程度の地震なのかは国民には解りませんし、補強でどの程度安全になるのかも解りません。又、補強対象も建築基準法改訂56年以前の木造が対象としており、56年以降の木造の安全性は高いと思ってしまいますが、実際は阪神淡路大震災では56年以降の木造も多くが倒半壊していました。実際にはそれ程大きな違いは無いように思います。しかし、耐震改修の評点1.0は56年以降の耐震基準法に準じたものです。なぜ、この基準なのでしょうか。
これは、阪神大震災後に各紙上で木造が地震に弱い構造と報道したことで、木造離れが大きな社会問題にまでなったことを覚えておられると思います。業界・国がこの対策として世界初といわれた実物実験(東京大学坂本教授を中心)でを実施、その実験総括は「建築基準法を遵守してきっちり造れば阪神クラスの地震では倒壊しない」と発表とされました。すなわち、56年に改定された新基準の木造は阪神クラス(最大818gal)では、倒半壊しない強度を持つということです。試験のビデオも販売されています。この結果、木造の耐震性に関する国民の不安は解消に向かい木造の減少に歯止めがかかったとされています。さらに、この結果は基準法にも大きな影響を持ち、2000年の基準法改定も接合部金物補強の付記で木造の耐震性自体の変更はされませんでした。当時、阪神大震災で56年以降の倒壊した木造が欠陥住宅だったとすれば、その責任は?といわれていました。このような状況から、現在迄この基準を評点1.0として耐震補強がされています。木造診断士によって耐震診断がなされ,補強計画、補強と進みますが、補強効果は推測で曖昧な為、実際の効果の割には高額費用の補強も多いように思います。現在常時微動や強制加震による動的耐震診断の技術も進み、少なくとも補強による安全性は解明できます。建築士の中には、現状の耐震補強を真剣に取り組もうと思っているが、生命に関わる重責な事業であるのに責任の所在・補強効果など曖昧な部分が多すぎて不安で出来ないと言う方も折られるのが実情なのです。
  耐震補強で最も知りたいのは、現在の実際の住まいの耐震性、建築基準法でどの程度の耐震性か、そして耐震改修をすればどの程度安全になるかということだと思います。
  2010年、「建築技術」は4月号で「耐震基準に於ける重大問題の発生」として、1996年に気象庁が震度階を改定したにも拘らず、基準法の耐震基準は現在に至るまで改定されない状況であることを発表。その内容は 現在震度7が800ガル以上であるのに、建築基準法は耐震基準の「安全限界」を震度6強から震度7程度の地震で倒壊・崩壊しない程度としながらも改定前の300ガル〜400ガル程度の耐震性のままというものです。そのため、実際の建築基準法の耐震基準の「安全限界」が、震度6弱であるとしています。この耐震性については、以前より指摘があったのですが、耐震に関係する人たちは基準法の震度階は気象庁とは違うと考えていた方もいます。
実際には、すでに国では解っていたともいえ2009年11月末Eデフェンスで実施された長期優良住宅3階建て公開実験で品格法ほぼ3等級1.44倍の木造住宅の実験棟が、震度6強720ガルの加震数秒で倒壊、さらに今後の指針とすべく金物で接合部補強をされた同棟は約20秒で倒壊。この実験の加速度720galは、耐震強度1.44倍、安全率2割の計算上の実質耐震強度1.8倍(安全限界400ガルの1.8倍=720ガル)で計算されたものとされ、(報告では震度6強とされています)この事実を踏まえての実験といえます。この実験結果からも、建築基準法1.0は400ガルでは倒壊域、56年以降現在に至る基準法に準じた木造住宅は震度6弱で倒壊の危険性が高いことが確認できます。
さらに言うならば、既存住宅の場合には経年劣化もあり実際には震度6以下での倒壊の可能性を安易に予測できるのです。思い出して見ますと1996年の実物実験結果では、当時坂本教授が「基準法遵守しきっちり造れば阪神大震災(818gal)程度の地震で倒壊しない」と発表されていたはずです。この実験結果を担保に、基準法改定1981年以降の建物は大地震にも倒壊しない耐震性を持つとして、1981年前の木造の耐震改修が進められることになったはずです。この実験結果で多くの建物を現在に至るまで評点クラスの補強し続けているのです。
今後の予想大地震では震度6弱以上の地域は非常に多く、従来の耐震補強では補強をしていても倒壊をする可能性が高いことになります。阪神大震災後の耐震補強、事実が解った今、この安全性は一体だれが責任を負うのでしょう。
  これからの耐震補強は、先ず第一に住人の生命と財産を守るための耐震強度にすることが重要です。それは、予想地震で少なくとも安全域や軽微な損傷域とすることです。そうすれば、目視による現在の耐震診断ももっと精度の高い診断方法が必要になります。また、木造自体の工法の改良も進むことになります。阪神大震災のような地震の場合は震度7、しかし、後記のように基準法は震度6弱。さらに、阪神大震災は都市直下型地震であり、直下型地震の特徴でもある「キラーパルス」は瞬時に加わる破壊力で、その衝撃は鉄骨の切断形状でも話題にもなったように、倒壊状況は普通の地震の揺れで倒壊したものとは全く異なります。中越沖地震では、雪国特有の頑丈な木造が半壊より倒壊のほうが多いという特異な被害状況も報告されています。
しかし、阪神大震災ではあまりにも倒壊・全壊が衝撃的だった為、単に倒壊を防ぐ対策、すなわち土台との柱が外れない補強、開口部などの強度を持たせ壁量を増やす補強、揺れを少なくする補強といった各々の部位の破壊や損傷を防ぐ補強方法等がクローズアップされたのではないかと思います。
  しかし、ここで、現在の耐震改修をもう一度まとめますと、従来の耐震補強は、56年以前の木造を補強で基準法の耐震強度にするというもの。その補強基準が、実際には低く、目的である「震度6弱程度での倒壊から圧死を防ぐ」補強にはなっていないのです。さらに問題は、56年以降の木造も、この最低必要な耐震性能が無いことが明らかとなった事。改修はどの程度の費用がかかるかという事です。従来の耐震改修でも費用が問題となっていましたが、さらに評点2.0倍の耐震性が必要になれば、いよいよ耐震改修は一般から遠いものになるように思わざるを得ません。従来のように補強をしてもその効果が解らないとすればなおさらです。
「建築技術」では、耐震補強の限界と基準法の改定とを考えた上で、免震にせざるを得ないとの結論をだし、その上で、従来技術としての足元フリーの方法で現行基準の建物が倒壊・崩壊を最低限防ぐことが可能として、地震から住まいを守る有史以来の悲願達成と結論つけています。しかし、本当にそれしか方法は無いのでしょうか。今回の耐力壁実験を通し解ったことは、現在の軸組工法はまだ完成されたものではなく、構造強度はまだまだ向上させることが可能な構造だということです。
我が国の建築業界は、1996年に勃発した阪神淡路大震災以降、既存建物の補強に始終して本来するべき軸組工法の改良があまりなされてこなかったように思います。それは、一般的に木造住宅は地震に弱く倒壊しやすいという先入観が強く、古くから繰り返し襲っていた自然災害に寛容な国民性、又、大地震がいつ襲うか解らないわが国では、当時の木造の寿命と費用を考えれば、地震に負けない建物を造るより、もし倒壊してもすぐに建て直せる建物のほうが経済的だったのかもしれません。しかし、建築技術が革新的に進んだ現在において、日本の風土で創り上げられた文化 木造が、地震に弱い木造・地震に強い建物ツーバイフォーと単純に考えられ、切り捨てられることは残念です。木造関係者はもっと軸組工法の研究をする必要があると思います。
最近、やっと我が国の木造に見直す風潮もあり、国の支援施策として長期優良住宅・超長期優良住宅も出てきました。しかし、あくまで建築業界や国産材・地域振興が目的の事業と言え、抜本的な建築改革には程遠いもの。基準となる木造自体の耐震性・構造強度は全く変わっていないのが実情です。2009年に実施された長期優良3階建て住宅実験のように、品確法ほぼ3等級と言う耐震性能でも震度6強クラスの予想地震地域では倒壊する危険性が大きいことが実証されたことになります。大橋教授は、すでに数年前から関東地区で予測地震が発生した場合、建築基準法の1.5倍以下の建物は倒壊すると講演されておりますが、現在もなお、このように長期優良住宅のみならず、基準値程度の新築あるいは耐震改修がほとんどである実情は、予測大地震が勃発した際には想像を超える多大な被害が発生することは避けきれず、業界の責任が大きいものであることは疑う余地は無いものと思います。東京直下型地震の危険性は高いのです。
  なぜ、建築基準法の耐震基準を上げないのでしょうか。現状の建築基準では、耐震改修はいつまでたっても終わらないことにもなりかねません。すまいは、高耐久・高耐震高耐風で少なくとも3世代以上か住める建物としたいものです。現在は、デザイン・住宅機器・高断熱・高気密などといろんな機能がついてきましたが、基本となる3要素がどうも軽んじられていると思います。現在の住まいが世代ごとに造られている日本の現状は、どこか違うように思います。耐用年数から造る住まいつくり、生活の仕方を考えた住まいつくり、そして子孫の為の住まい造り、これがこれからの日本の木造住宅です。東日本大震災から私たちは本当の幸せを考えて見る機会を得たように思います。そして本当に大切なことにきずき始めていると思います。今予想されている大地震がもし発生したとしたら、あなたは住まいを本当に信頼できますか。
  今回の試験では、「SANJIKU靭性耐震改修工法」が従来と比較して非常に大きな耐震性能と靭性特性を持つことを実証しました。実際の改修ではこの試験耐力壁にさらに構造用合板を施工し、初期地震・震度5クラスまでの地震には面材と筋交いで変形を抑え、それ以上の地震にもSANJIKUの合板変形を抑える効果でより強度の大きな耐震改修を提供します。この工法を活用すれば安価・簡便な高耐震改修の提供が可能になります。実際の耐震改修では、基準3尺の耐力壁1枚あたり、外部改修の場合、施工費・復旧費用込みで10万円程度。動的耐震診断で通常6面〜8面で安全域400ガルという従来の1.5倍以上の耐震改修となると考えています。今まで、動的耐震診断で実際の補強効果を確認し100万円程度で評点1.0倍以上を目標とした計算補強強度を大きく超える安全性です。1996年の震度階改定改がなされましたが、多くは最近まで評点1.0は震度6強で倒壊をしない耐震強度と考えられていました。

  世界各地で勃発している大地震や予想地震がM8クラスとも言われている現在、少しでも住まいの耐震性は高めることが必要です。多くの大地震が人口密集地に発生する危険性をもつわが国の状況を考えた場合、今後の耐震改修は単に倒壊を防ぐから、被災後も住める建物の耐震改修を増やし、地域の避難場所としても活用できることが必要だと思っています。すでに、関東直下型地震では最低評点1.5倍が必要といわれていますが、被災の軽減を考えた場合、あるいは木造の欠陥を考慮しますと、動的耐震診断ビイック社佐藤会長の言われる2,25倍以上が必要です。加速度で言うならば最低でも450〜500galの安全域を持つ耐震性です。この場合、建物の変位が倒壊域8cm以上になるのが900gal〜1,000gal。しかし木造の場合は粘りがあります。現在この評価はされておりませんが、靱性特性が大きな耐震性能を持つ構造は、さらに大きな安全域を持つと考えられます。SANJIKUの場合、従来の木造の2倍以上の1/10radまで躯体破壊がなく、大きな粘りを確認しております。伝統工法や土壁・壁抜き・力貫を使った在来工法は、レトロフィット毎熊教授の常時微振動耐震診断では、木造の2倍以上の変位まで倒壊しない粘りを持つと話されています。このような耐震性を持つ耐震改修をすることが、被災後も住み続けられる住まいと言えます。
今後はこの耐震性能をより安価・簡便に提供する工法を開発することだと思います。それは、現在造られ続けている新築木造住宅も地震に強い構造を持つ住まいとすることにもなります。この試験を基に、今後は軸組の新工法としての「トライアングルサポート工法」(SANJIKUを両面から施工し、筋交いを内側に取り付ける)・開口部の上下壁(3尺腰壁等)の補強壁・新開発の直下型地震(通し柱補強・耐縦揺れ・衝撃対応)のAKIRA工法の耐震性能・耐力性能の分析試験を計画しています。
SANJIKUは、高耐震構造を持つ工法として今後も改良をしてまいります。