(資)丸久材木店・ビイック社 共同実験
実験日 2003年8月27日〜29日
動的診断担当 ビイック社
SANJIKU耐震金物取り付け工事 中澤建設
油圧引っ張り 恩田組
◎実験概要
木造アパート2階建て在来軸組工法 布基礎 鉄骨階段付き
実験建物規模
築42年 1F49.5u 2F49.5u 延べ99u
屋根 日本瓦葺き
外装 胴渕下地メタルラスモルタル仕上げ
内装 壁通し貫プラスター真壁仕上げ
台所 通し貫、胴ぶち下地化粧合板
建物重量 99u×0.6t/u=59.4t 雑荷重含めた建物総重量 約60t
使用木材 土台・柱105×105 米栂使用
筋交い 30×90 釘固定
躯体状況 木材の腐れ等は無く良好
基礎 布基礎 良好
付記 外部に鉄骨角柱使用の階段付き
(本体の屋根を受け、桁にボルト接合)
(実験に際し、浮きが生ずると思われる南側コ
ーナー柱2ヶ所は、L型金物にて補強した)
◎今回施工説明
ジャッキ強制引き倒し工法
隣接建物基礎に穴を開け土台を露出させワイヤーで結束して反力アンカーを作成する。
引き倒し建物の2階奥の桁部分を露出させてワイヤーで結束して緊張ロープを設置。アンカー部との中間にジャッキ緊張機を設置して緊張する。同装置を4ヶ所設置して、建物横荷重を緊張して建物を横方向に引き倒していく。その際、適時、微量緊張し調査は数回に分けて実施。戻り量も計測する。
使用機器 20tジャッキ2台、油圧ポンプ1台、操作機1台、発電機1台
工具 ワイヤー・ストランド・小道具
SANJIKU補強概要 SANJIKU耐震金物 外側 太め釘ツーバイ用75
内側 50mmなべビス使用
一部標準施工に準じない皿ビスコースレッド使用
筋交い SPF 2×6×10F・12F
◎実験項目
1.本体の引張りに対する外壁のみを取り外し、引っ張り試験及び動的診断を行う。
実施変位は、1/120rad 1/60rad 1/30rad
2.外部胴渕及び壁通し貫を外し、SANJIKU・SPF2×6筋交いを襷掛け取り付け
実施変位は 1/120rad 1/60 rad 1/30 radを予定
3.筋交いを外しSANJIKUのみの補強での補強効果および応力を与えた後の建物の耐力
変化を確認する。
実施変位は、1/120rad 1/60rad 1/30radを予定
◎各加力時における実験状況報告
1.1/60radに至るまでに外壁の損傷が激しくなり、モルタルのひび割れ・剥離が始まる。又、建物の傾き・サッシュの歪が顕著となる。今回、1/44radにて、既設筋交いの撓み及び鉄骨階段の変位が建物倒壊及び破壊の危険性を生じた為、1/30radまでの実験は行なわなかった。また、建物応力解除後の変位復帰には、10分以上の時間を要した。
今回のSANJIKU取り付け施工状況は悪い。この状況での補強効果は初期において5%〜10%程度の耐力減と思われる。
A.西側北面に於ける今回の圧縮側に働く筋交いにおいての上部クリアランスが1cm以上あり、初期応力に関して最大値が出ない。
B.東面北側に於ける今回の張力側に働く筋交いにおいて欠損部が大きく面固定の利点を生かした特徴が生かせる状況には無い。
C.筋交いのボルト開穴・固定釘・ネジ・筋交の取り付けが標準施工通り施工されていない部分があり、基準値を大きく下回る危険性がある。
今回の実験はSANJIKUに関しては、欠陥の多い取り付け施工の場合の実験と条件付けることとして実施する。標準施工の実験は改めて実施することを双方で確認する。
SANJIKU・筋交仕様引張り試験状況は、1/60 radにおいて反力に使用した土台及び引張り部分の桁の破壊の危険性が生じ、応力測定が不可能となった為1/60radにて実験を終了した。実験においては、耐力の増加と応力解除後の建物の傾きからの復帰に大きな変化が確認された。
この復帰は筋交いを外しSANJIKUのみの場合にも同様であった。SANJIKUのみの引張り試験は、襷掛け筋交いの試験後、筋交いを取り外して行った。
今回は、西面に関しては筋交いを切断、東面に関しては下側の筋交いをSANJIKUから外し、補強座金を外し、金物本体のみで実験を行っている。SANJIKUはコーナーの角度変形を抑え接合部の離れを防ぐ。SANJIKU本体に関しては1/60radにおける変形は、ほとんど無い。
躯体に於ける接合部の浮き・離れ・変形も少ない。
◎動的試験結果
SANJIKU取り付け方法による数値誤差が明確に出た。すなわち、圧縮筋交いの取り付け不良による西面における強度低下が計測された。
各応力を加えた後、動的診断を実施したが、SANJIKUを取り付けると壁面の耐力が大きくなるばかりでなく、両壁面の固有周期のばらつきが修正される。SANJIKU取り付け前の構造は、東面・西面とも計算上同じ壁量の構造であるが、動的診断では大きな差が確認された。これは、施工等の諸条件と南北面の壁耐力・鉄骨製の階段等が大きく影響しているものと思われる。このことは、地震の際にひねり応力が建物に加わり倒壊する危険性が大きいことを意味する。この対象面にSANJIKUを取り付けることでばらつきが修正されることは、大きな耐震性能で各壁の耐力差を平均化する効果があると思われる。
◎実験結果考察
今回の実験を通じて、SANJIKUは取り付け方により差はあるにしろ靭性と剛性を備えた金物であることを実証した。既設の初期状況は、筋交いメタルラス及び通し貫・両面胴渕打ちを用いている。この建物の今回対象とする東西面の総壁量を計算する。基準法による壁量計算で算出すると東西面下記のようになる。
壁通し貫・内装・鉄骨階段の剛性を考えないものとする。
30×90筋交い 1.5倍×9枚 14.5倍 (3尺壁3カ所 1間3ヶ所)
メタルラスモルタル壁 1倍×2枚 2倍 (3尺壁2枚カ所)
室内 通し貫ラスボード プラスター塗り仕上げ 0.5倍×11枚=5.5倍
計 21.倍
実際は、現在の軸組工法と比較して壁下地に通し貫が使用され計算以上の値が出ると思われる。
SANJIKU補強後の壁量
206 38mm×120 筋交い襷掛け 3×6枚 18.0倍(3尺2、1間2)
壁下地及び通し貫材全て撤去。1/44radの引張り試験により接合部離れ、外壁モルタル・内部壁の割れ・剥離・羽子板金物の緩みを確認し1/120rad時に於ける耐震性は無いものとみなす。これは、筋交い撤去のSANJIKU単体の場合の試算も同様である。
上記を基に単純に静的引張りによる数値結果より壁量を計算すると
補強前の東西の壁量は 4824kNで 約28倍
補強後の 同 壁量は 7314kNで
約42倍
SANJIKUのみの壁量は 5800kNで 約33.4倍
補強前の躯体初期耐力は、内・外壁や壁貫・力貫等使用の軸組・在来工法の複合工法で、思った以上に大きなものであった。しかし、1/60radに至ると、メタルラスの浮き、モルタルの割れ・剥離を生じ圧縮筋交いの撓み等で耐力は限界に近くなる。倒壊の危険性を生じ実験を中止した1/44radまでには、1/60radから200kN程度の加力で到達する。すなわち、1/60radを境に極端に構造は弱くなる。これは、動的診断による損傷の危険ゾーンを示し1/30での倒壊の危険ゾーンを予測する耐震性能基準の整合性を示したものといえる。
また、実験は桁の加力で横揺れに対応する引張り荷重で実験を行ったが、柱の浮きはL型金物での補強で充分対応し、躯体破壊に関係する程の柱抜けはなかった。屋根及び建物の荷重が加わり、通常の固定方法で柱抜けを防いだものと思われる。
反力の限界によりSANJIKU仕様加重試験の加力を8.6tとしたが、筋交いの圧縮耐力の範囲内であり、本来張力も活用するSANJIKUの特性は確認できなかった。中部大学実験結果から予測すると、1/50rad付近で張耐力に移行し、1度耐力が落ちてから再び耐力が増加する。試験結果より 1/30rad における加重耐力は、9.5t〜10t程度が予測されることとなる。
今回は使用しなかったが、実際の既存住宅の耐震補強には更に9mm以上の構造用合板を標準仕様とするため、壁倍率2.5倍が加わる。更に初期耐力が増し、耐震性の高い構造を造ることとなる。また、実験状況にも記載したが、変位に対する復元力が非常に大きく、躯体は荷重をなくした時点ですぐに戻った。従来の筋交い補強の躯体では、復元に10分以上の時間を要することから、建物自体の靭性が非常に大きく変化したことを示し、実際の地震の際に揺れに対して反応が早く、建物に加わる応力を揺れで吸収する木構造の利点を生かすとともに、接合部の変位を最小限に押さえ、接合部破壊の危険性から守ることを意味する。更にSANJIKUのみの補強には、既存の耐震性能を1t上回る効果があり、単体補強の効果が改めて確認された。
◎結論
SANJIKUの接合部補強と筋交い・構造用合板併用による軸組工法の大きな耐震性の向上は、少ない壁面での補強でバランスの良い構造とし、倒壊を防ぐばかりでなく、大きな靭性と大きな壁量の双方を有してより被害の少ない構造とすることが可能である。今回の実験では、合板等を貼らないSANJIKUと筋交いの襷がけとの併用で1/120rad時における壁倍率は約7倍に相当し、鉄骨の階段等が付属していたり、取り付け不良はあったが中部大学での実験値より大きな値が確認されたこととなる。
又、筋交いを外して行った今回のSANJIKU単体補強のみの耐震効果は、ラーメン構造に近い接合部強度が確認され、掃き出し・中窓等の開口部補強効果は、初期構造の釘打ち30×90の筋交いで補強した躯体強度を凌ぐ耐震性能を示している。他の壁等の強度がすでに無くなったものとして実験値から試算すると5倍近い壁倍率を持つこととなる。中部大学での実験におけるSANJIKU単体補強(補強座金をボルトのみで取り付けた実験)で0.5〜1.0程度の補強効果を実験地として確認していたが、今回2×6を挟んだ上に補強座金を取り付け、更にSANJIKU自体の変形を防ぐ取り付け方を用いることで更に大きな壁量を確認したことになる。開口部の多い在来工法の補強に大きな期待が持てるものといえる。と同時に、接合部の変形が少ないことは筋交いにかかる応力を軽減する効果が大きいことを示し、従来の筋交い・躯体の破壊による倒壊の限界値を大きく変えるものと思われる。動的診断におけるデーターと比較すると、1/120radにおける効果が動的実験数値とほぼ一致し、診断による補強効果の確認が可能であることを実証した。
今回使用した建物自体の駆体性能に関しては、軸組・在来との併用構造であり、耐震性は予測したよりも大きなものといえる。現在の軸組工法は、間柱と筋交いを組み合わせたものであり、構造的筋交いの依存は更に大きいといえる。阪神淡路大震災では土壁や壁貫材の効果が大きなことが確認されたが、今回も15mm×75mmの通し貫がきっちりと取り付けられており大きく構造に寄与していることが確認できた。これは、通し貫の効果であるの木材の張力活用の有利さを示したものといえる。
従来の木構造の変位と倒壊との関連性は、今回の木構造に関してみると1/60rad(今回は47.5o)までは大きな耐力を持つがそれ以上の変位になると極端に耐力が無く落ち、1/30radに至れば半倒壊・倒壊する危険性が大きいと確認できた。30×90の1.5倍筋交いの圧縮耐力は1/44radで極端に撓み、圧縮破断をする危険性が大きく、この時点での効果はまったく無くなる。更に変位に対しての戻りに対する時間を要することより、初期変位が倒壊に大きな要因になることも確認した。今回は捻り・捩れのない実験であったが、実際の地震では3次元の力が働くことより躯体全体に働く複合力は更に複雑なものであり、接合部には引抜ばかりで無く揃断・曲げ等更に複雑な力が働くといえる。壁量のバランス良い配置の重要性を改めて確認した。補強方法・補強金物は、筋交いの取り付けばかりでなく、初期耐力に対応する接合部分の強度が重要であり、さらに1/60radから1/30radにいたる耐力をいかに補強するかが倒壊を決定つける要因となるといえる。
◎SANJIKU(トライアングルサポート工法)の耐震補強
以上の効果から、SANJIKU使用で合板を用いた構造壁面は、軸組工法の構造を大きな耐力壁で耐震性を持たせる スケルトンインフェル 構造に近い建物とすると思われる。
実際の既存住宅の耐震補強工事の場合、目視による耐震診断では内部状況の確認・施工状況を判断するのが難しく、おのずと限界があると同時に、補強の効果がなかなか解かり難く、診断士の頭を悩ましている点であると良く耳にする。又耐震補強工事に関しても予算・施工期間等々の制約もありなかなか耐震補強が進まない要因ともなっている。
今回のこの実験を通じて、SANJIKUを使った耐力壁は大きな耐震性能があり、少ない壁面での耐震性能の向上を実現することを確認した。と同時に、バランスを無視して総量で壁量を配置して設計された従来の住宅も外部にSANJIKUの大きな壁量を持つ耐力壁の補強でバランス調整されることがわかった。筋交いの大きな効果と取り付け方法の重要性が再確認されている現在、SANJIKUは、筋交いの割れ・外れ・破断を防ぎ、木材の強度を生かすとともに、少量の壁面でバランスを調整が出来る方法の1つと言える。
◎追記
この実験後に
東京都目黒
榊原邸の耐震補強を施工した。この物件は外部が9mmの野地板モルタル仕上げ、改造の為、内壁仕上げ材を全て撤去したものであるが、まったく筋交いのない軸組工法で壁面が少なく極めて耐震性の無いものである。今回耐震補強として1階部分にSANJIKU筋交い襷掛けに構造用OSB9mmを片面貼り施工耐震壁で補強をしたもので、次の補強をした後、動的診断を実施した。診断結果と補強方法は下記の通りである。
南北の壁において、北面1K壁2枚と3尺1枚で1219.7gal、南面3尺1枚(合板補強なし)で377gal (この面に関しては診断後、合板補強と1面補強面を追加した)西面1K補強壁2枚で1051.2gal 東面1K1枚で455.3gal
取り付け位置が重心に近い箇所であったり、取り付け面が適当な場所で無かったり、バランスが悪い為、値のばらつきを生じたが、この補強を通じて概算をしてみるとSANJIKU筋交い襷掛け構造用合板併用の耐力壁は、3尺(910)で約400〜500galの効果があると推測することが出来る。
◎今後の耐震補強について
大地震の発生が日本各地に予測される現状から、関東クラスの地震で倒壊しないとする建築基準法の耐震基準から、より被害の少ない基準への見直しが必要であると思う。特に既存住宅の耐震補強においては、目標値設定と施工マニュアルが必要であり、耐震知識・施工技術の基準を策定し、施工技術者の養成・育成をもっと推進するべきであると思う。少なくとも国民は国家の財産であり、住まいはその国民を守る重要な生活基盤である。もっと欧米のように施工者側の責任と義務を明確化すると同時に、法的に関する弁護士と同じように、建築に関する専門家としての地位と威厳ある資格制度の構築が必要に思われる。
◎動的診断の意味
今回各実験後にビイック社の動的診断を実施している。動的診断は、震度1程度の微弱振動を2階床上の建物重心で起こし、東西・南北方向における建物の揺れを測定し、建物の耐震性能を計測するものである。
今回の場合、初期実験で1/44radまで荷重を与えた後、SANJIKU及び筋交いを取り付け診断を行なった。この場合、ボルトの緩みや接合部に緩み与えた事ともなり、1/120radの変位において各接合部の耐力はほとんど無い。
阪神淡路大震災の被災住宅の場合、倒壊を免れた住宅でも風や自動車振動で大きく揺れ、結局建て替えをしたと言う例が多くあるが、この場合と同じである。
今回も補強したにもかかわらず動的診断では、安全区域を示す最大変位が1/120radを超える値は280ガル程度しか示さなかった。実際の荷重から壁量を計算すると初期を大きく上回ることが確認でき、壁量的には基準法を超えるものといえる。
このことより接合部位の緩みや、地震等の大きな揺れで初期耐力が減少した場合、微振動での測定である動的診断では建物の耐震性能を反映することは難しいといえる。軸組工法の躯体取り付けボルトの緩みや接合部の接合耐力が動的診断においては大きく影響すると言えると同時に、耐震補強時には通し柱と桁・梁の接合金物の緩みを緊結することが重要であることを意味する。しかし、動的診断は東西の補強状況を的確に示し(SANJIKU取り付け不良や特殊座金のボルトの締め忘れ等が的確に診断された)、特に従来総壁量で計算していた耐力壁の配置の問題点を指摘する耐力壁のバランスのデーターは、実際の建物の状態を反映し、耐震補強の際、実際にバランスよく補強できたかを確認するのに非常に有効である事が解かった。
また、基準法の1/120radにおける関東大震災の際の400galを基準とし、その2倍を倒壊しない強度があるものとしたものであるが、今後起きると予想される大地震を考えると、この補強から500gal以上は充分可能な補強強度範囲と言え、今後の補強の目安は少なくとも500gal以上にする必要がある。このことからも実際の建物の耐震強度が測定出来ない現状においてこの測定方法の意義は非常に大きなものと言え、補強後に補強効果の信頼性を確認するのに重要な検査方法であると言える。
さらに新築の場合は、建前筋交い取り付け後に診断することにより、ユーザーに大きな安心を保証することが可能となり、耐震性が不完全な危険のあるいわゆる欠陥住宅の建設を防ぐ事ともなる。このように動的診断は、ユーザーにとって効果が解かり難く、費用が不透明・不信感の大きな耐震補強工事を、安心と安全そして信頼性を高めもっと身近なものとする大きな手段である。巨大地震発生の危険性が高まっている現在、少しでも多くの生命と財産を守る為にも、この診断の重要性を周知させることが重要であると言える。
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